核融合炉の実現には金属だけでなく、セラミックス(無機非金属材料)が多数の重要な部位で使用されます。セラミックスは高温・高放射線・電気絶縁などの特性において金属や有機材料では代替できない役割を果たします。日本はファインセラミックスの技術大国であり、核融合分野においても多くの企業が重要な役割を担っています。2025年には大手セラミックスメーカーと核融合スタートアップの本格提携も始まり、産業化に向けた動きが加速しています。

核融合炉で使われるセラミックスの種類と役割

セラミックス材料 主な用途 求められる特性
アルミナ(Al₂O₃) 電気絶縁部品、フィードスルー 高絶縁性、耐放射線性、耐熱衝撃性
チタン酸リチウム(Li₂TiO₃) トリチウム増殖材(ブランケット) リチウム含有量、熱安定性、焼結性
炭化ケイ素(SiC) 低放射化構造材料、フローチャンネル挿入材 低放射化性、高強度、耐腐食性
窒化アルミニウム(AlN) 絶縁・放熱部品 高熱伝導率+高絶縁性
酸化ベリリウム(BeO) 核融合炉の中性子増倍材補助 高熱伝導率、中性子増倍効果
ジルコニア(ZrO₂) 断熱コーティング 低熱伝導率、化学的安定性

炭化ケイ素(SiC/SiC複合材):次世代核融合炉の構造材料候補

現在、ITER以降の実証炉・商用炉(DEMO炉)向けの構造材料として最も注目されているのがSiC繊維強化SiCセラミックス複合材(SiC/SiC複合材)です。SiC/SiCはC/C複合材やタングステンにはない「低放射化性」を持っており、核融合炉の廃炉時に生じる放射性廃棄物を大幅に削減できます。

SiC/SiCの主な特性は以下の通りです。

  • 低放射化性:核融合中性子照射による残留放射能が低く、廃炉後100年以内に安全レベルまで低下
  • 高温強度:1000℃以上でも強度を維持
  • 低密度:金属より軽い(約2.5 g/cm³)
  • 耐腐食性:ヘリウム冷却材・LiPb(液体金属)冷却材への耐性

宇部興産(UBE):SiC繊維「チラノ繊維」の開発者

宇部市(山口県)に本社を置く宇部興産(現UBE)は、SiC/SiC複合材の原料となるSiC繊維「チラノ繊維」を世界で初めて開発・商業化したパイオニアです。チラノ繊維は耐熱温度1800℃超という特性を持ち、現在も核融合材料研究に広く使用されており、欧州・米国の核融合研究機関にも供給されています。同社は近年、次世代航空機エンジン向けセラミックス基複合材(CMC)用途でもチラノ繊維の量産準備を進めており、世界でSiC長繊維を量産できるのはUBEと日本カーボン(「ニカロン」ブランド)の実質2社のみとされ、日本はSiC繊維の世界的な供給国としての地位を確立しています。この量産技術・品質管理体制は、将来の核融合炉向け需要拡大にも応用可能な基盤です。

京セラ×京都フュージョニアリング:核融合セラミックスの共同開発(2025年9月)

京セラと京都フュージョニアリングは2025年9月10日、フュージョン(核融合)エネルギープラント向けセラミックスの共同開発契約を締結しました。対象となるのは発電のための熱を取り出すブランケットや燃料供給システムで、炭化ケイ素(SiC)複合材や、トリチウムを安全に回収するための固体酸化物形電解セル(SOEC)関連部品の開発に取り組みます。ファインセラミックス大手が核融合スタートアップと直接手を組む事例として注目され、京セラはコーポレート・ベンチャー・キャピタルファンドを通じた出資も行っています。

東ソー:ジルコニア・セラミックスの大手

東ソーは国内最大のジルコニアメーカーであり、核融合炉における断熱コーティングや絶縁部品向けセラミックス素材の供給が期待されます。同社は2025年7月、東京大学に設置している「次世代ジルコニア創出社会連携講座」の設置期間を更新し、ジルコニアセラミックスの高靭化・高性能化に向けた研究を継続しています。バイオセラミックス(人工関節など)や電子部品向けセラミックスにも強みを持ち、ファインセラミックス全般にわたる製品ラインナップを持っています。

トリチウム増殖材セラミックスと日本の研究開発

核融合炉のブランケットでトリチウムを自己生産するためのトリチウム増殖材として、チタン酸リチウム(Li₂TiO₃)ペブル(小球体)の研究が盛んです。日本の原型炉(JA DEMO)設計では、鉄鋼材料「F82H」製の筐体内にこのLi₂TiO₃ペブルを配置し、約300℃の冷却水で熱を取り出す固体増殖・水冷ブランケット方式が有力候補とされています。量子科学技術研究開発機構(QST)・核融合科学研究所(NIFS)では、このセラミックスペブルの焼結・成形・照射試験に関する研究が進められており、化学メーカー・セラミックスメーカーとの共同研究が行われています。

日本ファインセラミクス産業の強み

日本のファインセラミクス産業は、京セラ・日本碍子(NGK)・東ソー・ニッカトー・住友化学などがグローバルに高い競争力を持っており、その技術基盤が核融合材料研究を下支えしています。特に以下の点が日本の強みです。

  • 精密な粉体合成・成形技術による均質な微細組織の制御
  • 焼結技術の高度化による高密度・高強度セラミックスの製造
  • 長年の品質保証・信頼性試験ノウハウ

政府が2025年6月に改定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」では2030年代の発電実証が国家目標に掲げられ、経済産業省の補助制度も拡充されており、こうした素材産業がサプライチェーンに参入する環境が整いつつあります。

まとめ

セラミックス材料は核融合炉の実現に欠かせない素材群であり、宇部興産のSiC繊維・東ソーのジルコニア・各社のトリチウム増殖材など、日本の化学・セラミックスメーカーが重要な役割を担っています。2025年9月の京セラと京都フュージョニアリングの共同開発契約は、大手セラミックスメーカーが核融合スタートアップと直接連携する新たな段階の到来を象徴する出来事でした。低放射化SiC/SiC複合材をはじめとする次世代材料の開発競争は激化しており、日本の技術力が核融合実用化の速度を左右する可能性があります。ChemiConnectではセラミックスと核融合の最新動向を引き続きお届けします。

参考:京セラ「フュージョンエネルギープラント向けセラミックスの共同開発契約を締結」東ソー「次世代ジルコニア創出社会連携講座を更新」日刊工業新聞「チラノ繊維、宇部興産が量産準備」内閣府「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」