炭素繊維は「鉄の4分の1の重さで、鉄の10倍の強度」を持つ革命的な素材として、航空機・自動車・スポーツ用品など幅広い分野で普及が進んでいます。そしてこの「夢の素材」は、核融合エネルギーの実現においても極めて重要な役割を担っています。日本は炭素繊維の世界最大の生産国であり、東レ・三菱ケミカルグループ・帝人の3社で世界シェアの過半数を占めています。

炭素繊維強化炭素複合材(C/C複合材)とは?

炭素繊維を炭素マトリックス(母材)で固めた複合材料を炭素繊維強化炭素複合材(C/C-composite、Carbon/Carbon composite)と呼びます。C/C複合材は以下のような卓越した特性を持ちます。

  • 超高耐熱性:不活性雰囲気または真空中では3000℃以上に耐えられる
  • 高温での高強度維持:多くの金属が融点に近づくと強度を失う中、C/C複合材は高温でもほぼ強度を保つ
  • 低熱膨張率:熱サイクルによる歪みが小さく、寸法精度が維持しやすい
  • 軽量性:密度は約1.9 g/cm³と金属に比べて非常に軽い

これらの特性から、C/C複合材は核融合炉の炉壁材料として早くから候補に挙がっていました。

核融合炉でのC/C複合材の用途

ダイバータ(Divertor)

ダイバータは、プラズマ中の不純物を排出するとともに、炉壁への熱負荷を集中的に受け止める装置です。熱流束は10〜30 MW/m²にも達し、これは太陽表面の熱流束(約6 MW/m²)を超えます。C/C複合材はこのような極限の熱負荷に耐えられる数少ない材料の一つとして、過去の多くのトカマク実験炉で採用されてきました。

リミター・ファーストウォール

リミターはプラズマが炉壁に接触する際の熱衝撃を吸収するための部材です。ファーストウォール(炉内壁最前面)の一部にもC/C複合材が使用されており、プラズマの不安定動作(ディスラプション)時の熱衝撃吸収に活躍します。

東洋炭素:核融合材料の専門メーカー

大阪を本拠とする東洋炭素は、等方性高密度黒鉛とC/C複合材において世界的な技術を持つ専門メーカーです。同社のCIC(Carbon In Carbon)材料は核融合分野での実績が豊富で、国内の実験炉JT-60(那珂核融合研究所)をはじめ、欧州のJETなど複数の核融合実験装置に材料を供給してきた実績があります。また、AI・EV需要による半導体製造装置向け黒鉛部材の急拡大を受けて2028年度までに600億円超を投じる大規模増産投資を進めており、この生産基盤の拡大は高純度炭素材料の供給余力という面で核融合分野にも波及効果があるとみられます。

東レ:炭素繊維世界首位の核融合への貢献

炭素繊維の世界シェアトップの東レは、航空機(ボーイング787の主翼・胴体に採用)や自動車向けで圧倒的な実績を持つ一方、C/C複合材の原料となる炭素繊維の品質向上にも継続的に取り組んでいます。核融合炉向けC/C複合材に要求される高い均質性・高熱伝導率・低不純物といった性能は、まさに東レが長年追求してきた高品質炭素繊維の特性と一致します。2026年2月には、熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRPを組み合わせた新しい熱溶着接合技術を発表し、航空機模擬構造体での接合時間を従来の接着剤・ボルト締結の3分の1以下に短縮できることを実証しました。こうした複合材の加工・接合技術は、複雑な形状が要求される核融合炉構造材の製造効率化にも応用可能な基盤技術です。

三菱ケミカルグループ(旧三菱化学カーボン)

三菱ケミカルグループは炭素繊維(パイロフィル™)の製造を手掛け、国内第2位の炭素繊維メーカーです。また、C/C複合材を含む炭素材料全般にわたる製品ラインナップを持ち、核融合・航空宇宙・産業分野向けに供給しています。同社は2025年、高性能炭素繊維の生産能力を日米で倍増させる増強計画を発表し、2027年にかけて段階的に投資を進める方針です。さらに2026年4月には、量子科学技術研究開発機構(QST)などと連携し、従来のタングステンに代わるダイバータ材料向けの新規炭素複合材料の共同研究を開始したと発表しました。中性子照射による脆化やトリチウム保持といった従来材料の課題を克服する次世代C/C複合材として、実用化への期待が高まっています。

C/C複合材の課題:トリチウム保持と粉塵問題

C/C複合材はその優れた耐熱性から初期の核融合実験装置で広く採用されましたが、商用炉に向けては以下の課題があります。

  • トリチウム保持問題:炭素材料はトリチウムを大量に吸着・保持する傾向があり、燃料のトリチウムが炉内に蓄積して燃料効率が下がる懸念があります。
  • 炭素粉塵の生成:プラズマとの相互作用により炭素粉塵(ダスト)が発生し、プラズマ不純物の原因になります。

このため、ITERではC/C複合材に代わりタングステンとベリリウムが採用されていますが、C/C複合材の改良版(コーティング処理など)や他の高融点セラミックスとの組み合わせによる解決が引き続き研究されています。三菱ケミカルが取り組む新規炭素複合材料の共同研究も、こうした従来課題の克服を狙った次世代アプローチの一つに位置づけられます。

構造材料としての炭素繊維複合材の可能性

プラズマに直接触れる壁材料としての用途に加え、炭素繊維複合材(CFRP)は核融合炉本体を支える構造部材としての応用可能性も注目されています。航空機や風力発電ブレードで培われた「軽量かつ高剛性」という特性は、大型かつ精密な位置決めが要求される核融合炉の周辺構造物にも活かせる可能性があり、東レ・三菱ケミカルグループがそれぞれの事業領域で蓄積してきた複合材料設計・成形技術が、今後こうした周辺分野でも競争力の源泉になり得ると考えられます。

まとめ

炭素繊維・C/C複合材は核融合炉の高熱負荷部品として重要な役割を果たしてきました。東レ・三菱ケミカルグループ・東洋炭素をはじめとする日本企業は、この分野で世界トップレベルの技術を持っています。2025〜2026年にかけて相次いだ増産投資や次世代C/C複合材料の共同研究開始など、具体的な動きも加速しており、今後の核融合実証炉・商用炉の開発においても、日本の炭素材料技術は欠かせない貢献を続けるでしょう。ChemiConnectでは炭素材料と核融合の最新動向を引き続きお届けします。

参考:三菱ケミカル「核融合炉ダイバータ材料向け新規炭素複合材料の共同研究を開始」三菱ケミカルグループ「日本および米国における高性能炭素繊維の生産能力増強について」日本経済新聞「東レ、炭素繊維複合材料の接合時間を短縮」日本経済新聞「東洋炭素、半導体製造で世界の黒子に」