2020年代に入り、核融合エネルギーの開発は国家主導から民間主導へと大きく転換しつつあります。世界ではベンチャーキャピタルや大企業からの投資を受けた核融合スタートアップが急増しており、2023年時点で世界の核融合スタートアップへの累積投資額は60億ドルを超えたとも言われます。この潮流の中で、日本の化学メーカーや商社・金融機関も投資・連携・共同開発を通じて核融合産業への関与を急速に深めており、2025年は「日本企業の核融合投資元年」ともいえる動きが相次ぎました。

日本の核融合スタートアップエコシステム

日本でも国内の核融合スタートアップが誕生し、資金調達を加速させています。代表的な企業は以下の通りです。

  • Helical Fusion(ヘリカルフュージョン):核融合科学研究所(NIFS)発のスタートアップ。ヘリカル型核融合炉の商用化を目指す。2025年12月にシリーズAエクステンションで約8.7億円、2026年5月にはシリーズB第1クローズで約27億円を調達し、累計調達額は約98億円に達した。最終実証装置「Helix HARUKA」の建設を進めている。
  • Kyoto Fusioneering(京都フュージョニアリング):京都大学発。核融合炉のプラント技術(ブランケット、ダイバータ、熱利用システム)に特化したスタートアップで、英国・米国との連携も活発。2025年9月にシリーズCエクステンションと融資枠を合わせ計93.8億円を確保した。
  • EX-Fusion(イーエックスフュージョン):大阪大学発。レーザー核融合に特化したスタートアップ。2025年6月にシリーズAで約26億円を調達し、累計調達額は56億円に達した。
  • Blue Laser Fusion:青色LD(レーザーダイオード)を活用したレーザー核融合の実現を目指す。

化学メーカーの連携事例

京セラ × Kyoto Fusioneering:セラミックス共同開発契約(2025年9月)

京セラと京都フュージョニアリングは2025年9月10日、フュージョンエネルギープラント向けセラミックスの共同開発契約を締結したと発表しました。対象は発電用の熱を取り出すブランケットや燃料供給システムで、炭化ケイ素(SiC)複合材やトリチウムを安全に回収するための固体酸化物形電解セル(SOEC)関連部品の開発に取り組みます。京セラはコーポレート・ベンチャー・キャピタルファンドを通じて京都フュージョニアリングへの出資も行っており、資本と技術の両面で連携を深めています。同社は2026年2月には滋賀県高島市にジャイロトロン(加熱装置の中核部品)の生産拠点も新設しました。

EX-Fusion × 化学メーカー(レーザー光学系材料)

レーザー核融合方式では、強力なレーザーパルスをターゲット(燃料ペレット)に照射してプラズマを生成します。使用されるレーザー光学系・レンズ・反射鏡・コーティング材料には、耐放射線性・高透過率・熱安定性が求められており、AGC(光学ガラス・特殊コーティング)信越化学工業(シリコーン光学材料)などの日本企業の技術が応用できます。

商社・金融機関による米CFSへの大型出資(2025年9月)

核融合投資における最大級のニュースが、米国のトカマク型核融合企業Commonwealth Fusion Systems(CFS)への日本企業12社による共同出資です。三井物産・三菱商事・関西電力・JERA・商船三井・JGCホールディングス・日本政策投資銀行・NTT・フジクラ・三井住友銀行・三井住友信託銀行・三井不動産の12社が参画し、総額約8.63億ドル(約1,200億円規模)の資金調達ラウンドに加わりました。CFSは米バージニア州で世界初の商用核融合発電所「ARC」の建設を計画しており、日本の参画企業は技術・商業知見の獲得と、国内での早期商用化・産業化への活用を狙っています。化学業界にとっても、この規模の資金循環はサプライチェーン形成の追い風となります。

素材メーカーが核融合スタートアップに提供できる価値

核融合スタートアップが直面する課題のひとつが「素材の量産・安定供給」です。研究段階では少量の試作品で済みますが、実証炉・商用炉の段階では大量の高性能材料が必要になります。化学メーカーの製造スケールアップ能力・品質管理体制・サプライチェーン構築力は、スタートアップが自前では持ち得ない強みです。

具体的に化学メーカーが提供できる価値は以下の通りです。

  • 高純度素材の安定大量生産技術
  • 過酷環境下での長期信頼性試験・品質保証体制
  • 既存工場・設備を活用したコスト効率の高い製造
  • スタートアップにはない規制対応・認証取得のノウハウ

日本政府の核融合政策と化学産業

政府は2025年6月4日に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、世界に先駆けた2030年代の発電実証を国家目標として掲げました。経済産業省内には「フュージョンエネルギー室」が設置され、令和7年度補正予算でフュージョンエネルギー発電実証推進事業に200億円、3年間の国庫債務負担行為で合計600億円が計上されるなど、支援制度は年々拡充しています。QST試算では原型炉の建設費は最大2兆円規模とされ、大手化学メーカーが核融合サプライチェーンに参入しやすい環境が整いつつあります。

まとめ

日本の核融合スタートアップエコシステムは急速に成長しており、Kyoto Fusioneering・EX-Fusion・Helical Fusionをはじめとする企業が相次いで大型資金調達を実現し、世界の舞台で存在感を示しています。さらに2025年9月には日本の商社・金融機関12社が米CFSへ約1,200億円規模の共同出資を行うなど、化学メーカーだけでなく金融・エネルギー業界を巻き込んだ投資の裾野が急速に広がっています。大手化学メーカーにとっても、これらのスタートアップとの早期連携は次世代エネルギー産業における戦略的ポジションを確立する好機です。ChemiConnectでは、核融合スタートアップと化学産業の連携動向を引き続きお届けします。

参考:三井物産「Commonwealth Fusion Systems(CFS)社への出資参画」Kyoto Fusioneering「京セラとのセラミックス共同開発契約」Helical Fusion ニュースリリース内閣府「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」