核融合用「高温超伝導材料」と日本の化学・素材企業の最前線
核融合炉の中核技術のひとつが超伝導磁石です。プラズマを閉じ込めるために強力な磁場が必要であり、この磁場を発生させる超伝導コイルの性能が核融合炉全体の効率を左右します。近年、民間核融合スタートアップを中心に高温超伝導(HTS)材料を使った次世代コイルの開発が加速しており、日本の化学・素材企業も重要なサプライヤーとして注目されています。
低温超伝導と高温超伝導の違い
超伝導とは、特定の温度以下(臨界温度)で電気抵抗がゼロになる現象です。核融合炉への応用では、主に以下の2種類が使われます。
| 種別 | 代表材料 | 臨界温度 | 運用温度 |
|---|---|---|---|
| 低温超伝導(LTS) | Nb₃Sn、NbTi | 18 K、9 K | 液体ヘリウム(4 K)冷却 |
| 高温超伝導(HTS) | REBCO(希土類系酸化物) | 約90 K以上 | 液体窒素(77 K)以上で運用可能 |
高温超伝導材料(特にREBCO:希土類バリウム銅酸化物)は、より高い温度でより強い磁場を発生できるため、核融合炉の小型化・コスト削減に革命をもたらす可能性があります。米国の核融合スタートアップCommonwealth Fusion Systems(CFS)はREBCOを用いた20テスラを超える超伝導磁石の開発に成功しており、世界の核融合業界を驚かせました。同社は2026年に入り、実証炉「SPARC」向けに1基あたり約24トン・磁場強度20テスラ(MRI装置の約13倍)というトロイダル磁場コイルの設置を開始し、年央までに全18基の設置を完了する計画を進めています。建設全体の進捗は約75%に達しており、2027年の初プラズマ達成を目指しています。
REBCOテープ線材と日本企業
REBCO超伝導線材は、金属基材(ハステロイなど)の上に複数のバッファ層と超伝導層(REBCO薄膜)を積層したコーテッドコンダクター(被覆線材)として製造されます。この線材の製造では日本企業が世界市場で重要なポジションを占めています。
- フジクラ:REBCO超伝導線材の量産化で世界をリードする企業。CFSに出資しており、SPARC向け線材のパートナー企業の一社です。2024年度に約60億円を投じて生産設備を増強したのに続き、2026年2月にはさらに56億円の追加投資を決定し、高温超伝導線材の生産能力を2022年度比で6〜8倍に拡大する計画を打ち出しています。
- 住友電気工業:REBCO系超伝導線材(DI-BSCCO含む)の製造・販売で世界有数の実績を持つ企業です。
- 古河電気工業:低温超伝導Nb₃Sn線材でITERへの供給実績があり、高温超伝導線材にも参入しています。英国の核融合スタートアップTokamak Energyとは2023年に数百キロメートル規模のHTS線材を複数年にわたり供給する契約を締結しており、2026年にはさらに協業を強化し、英国内での供給体制構築を目指す方針を発表しています。
フジクラ・住友電工・古河電工のいわゆる「電線御三家」は、AI関連のデータセンター向け需要拡大でも急成長しており、核融合と先端半導体という2つの成長分野を同時に取り込むポジションを築きつつあります。
超伝導コイルの絶縁材料と化学メーカー
超伝導コイルは強力な電流を流すため、コイル間の高電圧絶縁が極めて重要です。また、極低温環境(4〜20 K)での機械的信頼性も必要とされます。この絶縁材料として使われるのが、エポキシ樹脂含浸ガラス繊維クロスやポリイミドフィルムなどです。
日本の化学企業では以下が関連技術を持っています。
- 三菱ケミカルグループ:エポキシ樹脂(エポミックシリーズ)・複合材料の大手。超伝導コイル用途向けの低温硬化型・高靭性タイプの開発も進めています。
- 東レ・デュポン(現:東レ):ポリイミドフィルム(カプトン)に相当する高耐熱絶縁フィルムを手掛け、超伝導機器向けの応用が期待されます。
- 宇部興産(UBE):ポリイミドフィルム(ユーピレックス)は極低温での柔軟性と絶縁性に優れており、超伝導コイルの絶縁テープとして評価されています。
耐放射線性という次の課題:ハイエントロピー型HTSの研究
REBCO線材は強力な磁場を発生できる一方、核融合炉内では高エネルギー中性子照射による超伝導特性の劣化が長期的な課題となります。東京都立大学などの研究グループは、複数の元素を組み合わせた「ハイエントロピー型高温超伝導体」によって照射耐性を飛躍的に高める研究を進めており、将来の商用炉で求められる長期運転に耐える磁石材料の実現に向けた基礎研究が進展しています。こうした材料科学の知見は、日本のHTS線材メーカーの製品競争力をさらに高める土台になるとみられます。
核融合スタートアップからの調達需要
世界で30社以上が活動する民間核融合スタートアップ(CFS・TAE Technologies・Helion Energy・Tokamak Energyなど)の多くが、高温超伝導コイルを採用した小型核融合炉の開発を競っています。これらのスタートアップからのHTS線材・絶縁材料の調達需要は急速に拡大しており、フジクラ・住友電工・古河電工などの日本メーカーにとって大きなビジネスチャンスとなっています。日本政府も2025年6月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、世界に先駆けて2030年代の発電実証を目指す方針を打ち出しており、超伝導材料は国家戦略上も重要な位置づけを与えられています。
まとめ
高温超伝導材料はコンパクト核融合炉を実現するための鍵であり、この分野でフジクラ・住友電工・古河電工などの日本企業が世界的な競争力を持っています。また、絶縁材料の観点からは三菱ケミカル・UBEなどの化学メーカーも重要なサプライヤーとなり得ます。2026年に入りフジクラの大型追加投資や古河電工の英国での協業強化など、具体的な事業拡大の動きが相次いでおり、核融合エネルギーへの移行が現実のものとなれば、これらの日本企業の技術と製品が世界の核融合炉を支える基盤となるでしょう。
参考:TechCrunch「Commonwealth Fusion Systems installs reactor magnet」/日本経済新聞「フジクラ、核融合の超電導線材に56億円投資」/電気新聞「古河電工、英トカマクと協業を強化」/東京都立大学「ハイエントロピー型高温超伝導体」