核融合炉の中核技術のひとつが超伝導磁石です。プラズマを閉じ込めるために強力な磁場が必要であり、この磁場を発生させる超伝導コイルの性能が核融合炉全体の効率を左右します。近年、民間核融合スタートアップを中心に高温超伝導(HTS)材料を使った次世代コイルの開発が加速しており、日本の化学・素材企業も重要なサプライヤーとして注目されています。

低温超伝導と高温超伝導の違い

超伝導とは、特定の温度以下(臨界温度)で電気抵抗がゼロになる現象です。核融合炉への応用では、主に以下の2種類が使われます。

種別 代表材料 臨界温度 運用温度
低温超伝導(LTS) Nb₃Sn、NbTi 18 K、9 K 液体ヘリウム(4 K)冷却
高温超伝導(HTS) REBCO(希土類系酸化物) 約90 K以上 液体窒素(77 K)以上で運用可能

高温超伝導材料(特にREBCO:希土類バリウム銅酸化物)は、より高い温度でより強い磁場を発生できるため、核融合炉の小型化・コスト削減に革命をもたらす可能性があります。米国の核融合スタートアップCommonwealth Fusion Systems(CFS)はREBCOを用いた20 Tを超える超伝導磁石の開発に成功しており、世界の核融合業界を驚かせました。

REBCOテープ線材と日本企業

REBCO超伝導線材は、金属基材(ハステロイなど)の上に複数のバッファ層と超伝導層(REBCO薄膜)を積層したコーテッドコンダクター(被覆線材)として製造されます。この線材の製造では日本企業が世界市場で重要なポジションを占めています。

  • フジクラ:REBCO超伝導線材の量産化で世界をリードする企業。ITERや民間核融合スタートアップへの供給実績があります。
  • 住友電気工業:REBCO系超伝導線材(DI-BSCCO含む)の製造・販売で世界有数の実績を持つ企業です。
  • 古河電気工業:低温超伝導Nb₃Sn線材でITERへの供給実績があり、高温超伝導線材にも参入しています。

超伝導コイルの絶縁材料と化学メーカー

超伝導コイルは強力な電流を流すため、コイル間の高電圧絶縁が極めて重要です。また、極低温環境(4〜20 K)での機械的信頼性も必要とされます。この絶縁材料として使われるのが、エポキシ樹脂含浸ガラス繊維クロスポリイミドフィルムなどです。

日本の化学企業では以下が関連技術を持っています。

  • 三菱ケミカルグループ:エポキシ樹脂(エポミックシリーズ)・複合材料の大手。超伝導コイル用途向けの低温硬化型・高靭性タイプの開発も進めています。
  • 東レ・デュポン(現:東レ):ポリイミドフィルム(カプトン)に相当する高耐熱絶縁フィルムを手掛け、超伝導機器向けの応用が期待されます。
  • 宇部興産(UBE):ポリイミドフィルム(ユーピレックス)は極低温での柔軟性と絶縁性に優れており、超伝導コイルの絶縁テープとして評価されています。

核融合スタートアップからの調達需要

世界で30社以上が活動する民間核融合スタートアップ(CFS・TAE Technologies・Helion Energy・Tokamak Energyなど)の多くが、高温超伝導コイルを採用した小型核融合炉の開発を競っています。これらのスタートアップからのHTS線材・絶縁材料の調達需要は急速に拡大しており、フジクラ・住友電工などの日本メーカーにとって大きなビジネスチャンスとなっています。

まとめ

高温超伝導材料はコンパクト核融合炉を実現するための鍵であり、この分野でフジクラ・住友電工・古河電工などの日本企業が世界的な競争力を持っています。また、絶縁材料の観点からは三菱ケミカル・UBEなどの化学メーカーも重要なサプライヤーとなり得ます。核融合エネルギーへの移行が現実のものとなれば、これらの日本企業の技術と製品が世界の核融合炉を支える基盤となるでしょう。