ITER計画を支える日本の化学企業:調達・技術貢献の全貌
フランス南部のカダラッシュで建設が進むITER(国際熱核融合実験炉)は、核融合エネルギーの実現可能性を実証するための史上最大の国際科学プロジェクトです。EU・日本・米国・ロシア・中国・韓国・インドの7極が参加し、総事業費は2兆円を超えるとも言われます。このプロジェクトで日本は約9%の機器調達貢献を担っており、化学・素材メーカーを含む多くの企業が部品・材料の製造に関与しています。
ITERとは何か?
ITERは「International Thermonuclear Experimental Reactor(国際熱核融合実験炉)」の略称で、ラテン語で「道」を意味します。目標とする主要性能は以下の通りです。
- 熱核融合出力:500 MW(入力加熱パワー50 MWの10倍)
- プラズマ電流:15 MA(メガアンペア)
- プラズマ体積:840 m³(世界最大規模)
- 核融合燃焼時間:400秒以上の維持を目指す
完成後は、核融合エネルギー増幅率Q値(出力/投入)が10以上という「科学的ブレークイーブン」を大幅に超えた実証を行い、続く商用実証炉(DEMO炉)の設計につなげる計画です。
日本の調達分担と化学・素材企業の役割
国内の調達担当機関である量子科学技術研究開発機構(QST)のもと、日本は以下のような主要機器の製造を担当しています。
| 調達品目 | 関連する日本企業・機関 |
|---|---|
| 超伝導コイル用NbTiストランド・Nb₃Snストランド | 古河電気工業、フジクラ |
| 環状コイル(TFコイル)の絶縁材料 | 三菱電機(コイル製造)、絶縁材料は化学メーカー供給 |
| 高熱負荷部品(ダイバータ)材料 | 東芝エネルギーシステムズ、材料は特殊セラミックス・タングステンメーカー |
| 中性粒子入射加熱装置(NBI) | 三菱電機ほか |
| 遠隔保守装置・ロボット | 三菱重工業ほか |
超伝導コイルの絶縁材料と化学メーカー
ITERの心臓部ともいえる超伝導磁場コイルは、極低温(約4ケルビン=マイナス269℃)で運用されます。コイルの絶縁にはエポキシ樹脂含浸ガラスクロス(G-10・G-11グレード)や極低温環境での信頼性が実証された特殊絶縁材料が用いられています。
日本の化学メーカーでは、三菱ケミカルグループ(エポキシ樹脂・複合材料)、東レ(炭素繊維・ガラスクロス)、日立化成(現:レゾナック)(電気絶縁材料)などがこれらの材料供給に関わる技術を持っています。超伝導コイルは一度組み上げると分解・交換が極めて困難なため、使用する樹脂・絶縁材料には数十年にわたる信頼性が求められます。
真空容器・シール材料の特殊性
ITER本体の真空容器は、プラズマを閉じ込めつつ外部と完全に隔離するための超高真空環境(10⁻⁷ Pa台)を維持しなければなりません。接合部のシール材料には、金属ガスケットやセラミックスコーティングが使われており、フッ素ゴム(FKM)などの高機能エラストマーも一部で使用されています。ダイキン工業・AGCが強みを持つフッ素系材料はこのような超高真空・耐放射線用途での応用が期待されます。
ITERの遅延と課題、そして日本への影響
当初2025年に予定されていたITERの初プラズマは、新型コロナウイルス感染症の影響や設計見直しにより大幅に遅延しており、現在は2030年代前半への計画修正が検討されています。この遅延は、部材を製造・納入した企業にとってコスト面での負担増になる一方、日本国内の核融合研究(JT-60SA等)との技術フィードバックの期間が延びたとも捉えられます。
まとめ
ITERプロジェクトは、日本の化学・素材・電機メーカーが総力を挙げて取り組む一大国際プロジェクトです。超伝導コイル絶縁材料・高熱負荷材料・シール材料・真空技術など、あらゆる分野で日本の素材企業の技術が活かされています。核融合の実用化という長い道のりの中で、これらの企業が培う技術と知見は、将来の商用炉建設に向けた日本の競争力の礎となるでしょう。