化学業界の会社分析

信越化学工業の半導体シリコン事業 〜世界トップシェアを誇る半導体の土台〜

1. 半導体シリコンとは

半導体シリコンは、半導体デバイスの基板として使用される単結晶シリコンウエハーのことです。
マイクロプロセッサ、メモリー、パワーデバイスなど、ほぼすべての半導体はシリコンウエハーから作られます。

  • 原料:高純度多結晶シリコン(純度 99.999999999%=11N 以上)

  • 形状:円盤状(直径 100mm〜300mm、次世代は450mmも研究段階)

  • 用途:スマホ、PC、自動車、産業機器、AIサーバーなどの半導体製造

日本の半導体メーカーは、例えばルネサスエレクトロニクスやデンソーなどがあります。

世界的な半導体メーカーは、台湾のTSMCやアメリカのIntel、韓国のサムスン電子などがあります。


2. 世界における信越化学の位置づけ

  • 世界シェア:約30%(2023年時点、トップ)

  • 主力ブランド:信越半導体(Shin-Etsu Handotai, SEH)

  • 生産拠点:日本(群馬、福島、岡山など)、米国、台湾、マレーシアなど

  • 競合企業:SUMCO(日本)、GlobalWafers(台湾)、Siltronic(独)、SK Siltron(韓国)


3. 製造工程の概要

半導体シリコンウエハーの製造は、超高純度化と精密加工の連続工程です。

3.1 多結晶シリコン製造

  1. 金属シリコンを塩化水素と反応 → トリクロロシラン

  2. 蒸留で高純度化 → 水素還元で多結晶シリコンを析出

3.2 単結晶引き上げ(CZ法)

  • チョクラルスキー法(CZ法)で多結晶シリコンを溶融し、単結晶インゴットを引き上げ。

3.3 ウエハー加工

  1. インゴットをスライス(薄い円盤状に切断)

  2. ラッピング(表面を平坦化)

  3. エッチング(化学的に表面の損傷層を除去)

  4. ポリッシング(鏡面仕上げ)

  5. 最終洗浄・検査(欠陥・パーティクルのチェック)


4. 信越化学の技術的強み

4.1 高品質と歩留まりの高さ

  • 結晶欠陥が極めて少なく、均一な電気特性を持つウエハーを量産可能。

  • 半導体メーカーの微細化(2nm世代)に対応する平坦度と清浄度を実現。

4.2 大口径ウエハー対応

  • 300mmウエハー量産で世界トップクラス。

  • 大口径化は1枚あたりのチップ生産数を増やし、コスト低減に寄与。

4.3 グローバル供給網

  • 日本国内だけでなく海外にも複数拠点を持ち、供給安定性を確保。


5. 主な用途

  • ロジック半導体(CPU、GPU、AIチップ)

  • メモリー半導体(DRAM、NANDフラッシュ)

  • パワーデバイス(EV、産業機器用)

  • センサー(カメラ、IoT機器)


6. 市場動向と信越の戦略

6.1 市場動向

  • 半導体需要はAIサーバー・EV・5G・データセンターの拡大で長期成長傾向。

  • 技術トレンドは「微細化」「3D化」「大口径化」。

6.2 信越の戦略

  • 次世代向け300mmウエハーの高機能化(低欠陥、特殊抵抗値制御)

  • SOI(Silicon on Insulator)ウエハーなど付加価値品の拡大

  • 国内外での設備増強による安定供給


7. 環境対応

  • 製造工程での省エネルギー化

  • 再生可能エネルギー利用の拡大

  • ウエハー再生(リサイクル)技術の開発


8. 信越が世界トップを維持する理由

  1. 長年の技術蓄積(1960年代から半導体シリコン事業開始)

  2. 品質・信頼性が世界中の半導体メーカーから評価

  3. 多拠点生産による供給リスク分散

  4. 高付加価値製品ポートフォリオ(標準品から特殊品までカバー)

  5. 半導体需要の変動にも強い財務基盤と投資余力


9. 今後の展望

  • AI・EVの普及に伴い、パワー半導体用ウエハーの需要拡大

  • 次世代の450mmウエハーの実用化に向けた研究

  • カーボンニュートラル実現に向けた製造プロセスの革新

  • 新興国市場(インドなど)への半導体製造拠点増加に伴う供給拡大


10. まとめ

信越化学工業の半導体シリコン事業は、世界最大のシェアと最高品質を誇り、現代の半導体産業を文字通り「土台」から支えています。
その強みは技術・品質・供給体制にあり、今後も半導体需要の拡大とともに、成長を続けると見込まれます。
AI時代・EV時代の加速に合わせ、信越の半導体シリコンはますます重要性を増していくでしょう。