株式会社クラレは、世界で初めて合成繊維ビニロンを事業化したことで知られる化学メーカーですが、現在の実態は「EVOH樹脂・ポバール樹脂という世界トップシェア製品に経営資源を集中し、儲からない事業は容赦なく手放す」という、徹底した選択と集中を実行する会社です。2022年以降、人工大理石や人工骨、珪藻土事業などから相次いで撤退し、2025年にはポリエステル樹脂・長繊維の生産終了も決定。一方でEVOH樹脂は410百万ドルを投じてシンガポールに新工場を建設するなど、コア事業への投資は加速しています。この記事では、この「選択と集中」の実態を中心に、クラレの最新の姿を解説します。


企業概要(最新数値)

  • 会社名:株式会社クラレ(Kuraray Co., Ltd.)

  • 設立:1926年

  • 本社所在地:東京都千代田区大手町

  • 売上高(2024年12月期・連結):8,269億円(前期比+5.9%)

  • 営業利益(2024年12月期):850億円(前期比+12.7%)/経常利益815億円(同+18.0%)

  • 従業員数(連結・2024年12月末):11,941人

  • 平均年収:約809万円(平均年齢42.2歳、平均勤続年数17.8年)

  • 海外拠点:米国、ドイツ、中国、シンガポール、韓国など世界30か国以上。売上高の7割以上が海外事業


選択と集中を徹底する会社――非中核事業の整理とEVOHへの一極投資

クラレの近年の経営を象徴するのが、収益性の低い事業からの継続的な撤退と、世界シェアを握るコア製品への集中投資という「両建て」の動きです。

  • ポリエステル樹脂・長繊維から撤退(2025年6月発表):生産子会社クラレ西条(愛媛県西条市)でのポリエステル樹脂「クラペット」およびポリエステル長繊維「クラベラ」の生産を2026年12月末までに終了。市場環境の変化と設備老朽化による維持更新費用の増加で、安定的な収益確保が困難と判断されました。関連製品の販売自体はOEM調達によりクラレトレーディングが継続します。

  • 子会社クラレクラフレックスを吸収合併(2025年5月1日実施):アジアでの供給過剰と国内需要減少を背景に、生産能力縮小を含む事業再構築の一環として完全子会社を本体に統合しました。

  • 2022年以降、人工大理石・排水処理微生物担体・人工骨などの事業から撤退。2024年には珪藻土・パーライト事業をフランス企業に売却するなど、非中核事業の整理を継続的に実施しています。

  • 一方でEVOH樹脂〈エバール®〉には大型投資:2024年8月、シンガポールで新工場の起工式を実施(投資額410百万米ドル、年産1.8万トン、2026年末稼働予定)。米国・欧州でも増産を進め、2026年末には世界生産能力が2023年比2.8万トン増の13.1万トンに拡大する計画です。EVOH樹脂は世界シェア6〜7割ともいわれるクラレの稼ぎ頭であり、投資は明確にここへ集中しています。

  • ボルトオンM&Aも活用:2024年に米国の産業用活性炭事業(Calgon Carbon関連)を買収したほか、2025年には表面改質技術を持つ米新興企業ネルンボを買収。PFASを使わない撥水加工技術など、環境対応型の周辺技術を外部から取り込む動きも進めています。

転職検討者への示唆:クラレは「一部の稼ぎ頭に人・モノ・カネを集中し、それ以外は整理する」経営スタイルが明確です。西条事業所などポリエステル関連部門は今後縮小が確実な一方、EVOH・ポバール関連の研究開発・生産技術職は増員傾向にあると見られます。応募先の製品がコア事業(EVOH・ポバール・活性炭)か非中核事業かを事前に確認することが、キャリアの安定性を左右します。


主な事業分野と製品(最新状況)

1. 樹脂事業(投資集中領域)

  • EVOH樹脂(エバール®):食品包装材、燃料タンク用バリア材。世界シェア6〜7割。シンガポール・米国・欧州で生産能力増強中

  • ポバール樹脂(ポバール®):接着剤、紙加工、フィルム。世界初の工業化を成し遂げた主力製品

  • 熱可塑性エラストマー

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2. 化学品事業

  • 活性炭(水処理、空気浄化)。米国での買収により事業拡大中

  • 医療用フィルター

  • 工業薬品(メタクリル酸エステル)

3. 繊維・機能材事業(整理進行中)

  • ビニロン繊維(建築資材、漁網)

  • 人工皮革「クラリーノ®」(スポーツ用品、ファッション)

  • 不織布(医療・衛生材)

  • ポリエステル樹脂・長繊維は2026年12月末までに生産終了予定(西条事業所)

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クラレの強み

  1. 世界トップシェア製品への集中投資:EVOH樹脂・ポバール樹脂など、収益性の高い製品にヒト・モノ・カネを集中する明確な経営方針

  2. 不採算事業の整理を実行する経営スピード:人工大理石・珪藻土・ポリエステルなど、継続的な事業ポートフォリオの入れ替え

  3. ボルトオンM&Aによる周辺技術の獲得:活性炭事業やネルンボの表面改質技術など、コア事業を補完する技術を機動的に取り込む力

  4. グローバル展開:世界30か国以上に拠点を持ち、売上高の7割以上を海外事業が占める


業績トレンド

  • 2024年12月期:売上高8,269億円(前期比+5.9%)、営業利益850億円(同+12.7%)、経常利益815億円(同+18.0%)と増収増益

  • 成長ドライバー:EVOH樹脂の増産投資、活性炭事業の北米拡大、環境対応型包装材・自動車軽量化向け素材の需要増

  • 構造改革の影響:ポリエステル事業からの撤退や子会社統合により、今後数年で非中核部門の固定費削減効果が見込まれる


働きやすさに関するデータと生の声

  • 離職率:自己都合離職率1.48%(2024年度)と低水準

  • 平均残業時間:月19.0時間

  • 有給休暇取得率:73.6%

  • OpenWork等の口コミ(良い面):「大企業のため福利厚生や休みが充実している」「年休取得率が高い」といった声

  • OpenWork等の口コミ(課題):「新しい事業の創出がうまくいっておらず、若手にしわ寄せがいっている」という管理職からの指摘や、製造現場の三交代勤務の負担を理由に退職したという声も見られる

福利厚生や休暇取得のしやすさは高評価な一方、事業整理を続ける中で新規事業創出力への課題を指摘する声がある点は、選択と集中戦略の裏返しともいえます。


転職希望者が押さえるべきポイント

求められる人材像

  • 化学・材料・機械・環境分野の知識

  • 英語力(海外顧客・拠点との連携、特にシンガポール・欧米拠点との折衝)

  • 研究開発、生産技術、品質管理の経験

採用職種例

  • 高機能樹脂(EVOH・ポバール)の研究開発・生産技術

  • 医療用フィルターの設計

  • 活性炭事業の海外事業開発

  • 海外営業・マーケティング

国内の主要拠点

クラレの国内拠点は、本社・事業所・研究所に大別されます。創業の地である岡山県を中心に、全国に拠点を配置しています。

  • 本社(東京): 経営・スタッフ機能の中心であり、グローバル事業の統括拠点。
    • 所在地: 東京都千代田区大手町2-6-4 常盤橋タワー
  • 大阪事業所: 西日本の営業拠点として機能し、クラレグループの主要なスタッフ機能も担う。
    • 所在地: 大阪市北区角田町8-1 大阪梅田ツインタワーズ・ノース
  • 岡山事業所: クラレ最大の生産拠点であり、ビニロンやポバール樹脂、エバール、人工皮革〈クラリーノ〉など、基盤となる製品を生産。
    • 所在地: 岡山県岡山市南区海岸通1-2-1
  • 倉敷事業所: 倉敷はクラレ発祥の地であり、研究・技術開発の一大拠点。高付加価値製品の生産も行う。
    • 所在地: 岡山県倉敷市玉島乙島7471
  • 鶴海事業所: 瀬戸内海に面した岡山県備前市に位置し、活性炭や電池材料など、炭素材料の生産・開発を担う。
    • 所在地: 岡山県備前市鶴海4342
  • 新潟事業所: メタクリル樹脂やポバール樹脂など、クラレの化学事業を支える基幹事業所。
    • 所在地: 新潟県胎内市倉敷町2-28
  • 西条事業所: 愛媛県にある生産子会社クラレ西条の拠点。ポリエステル樹脂・長繊維の生産は2026年12月末までに終了予定で、今後は他製品への設備転用が見込まれる。
    • 所在地: 愛媛県西条市朔日市892
  • 鹿島事業所: 茨城県にあり、化学品の製造を行う。
    • 所在地: 茨城県神栖市東和田36
  • 研究開発拠点:
    • くらしき研究センター: 倉敷事業所内にあり、クラレの主要な研究開発を担う中核拠点。
    • つくば研究センター: 茨城県つくば市にあり、最先端の研究開発を行う。

海外の主要拠点

クラレは、売上高の7割以上を海外事業が占めており、世界各地に生産・販売・研究開発拠点を設けています。

  • シンガポール: EVOH樹脂〈エバール〉の新工場を建設中(2026年末稼働予定、投資額410百万米ドル)。アジア・パシフィック地域の統括拠点。
  • 米国: テキサス、ノースカロライナ、ウェストバージニアなどに製造・研究開発拠点。活性炭事業の買収により事業をグローバルに展開するほか、EVOH樹脂の生産能力も増強中。
  • ドイツ: フランクフルトなどに拠点を置き、欧州市場のハブとして機能。
  • ベルギー: EVAL Europe N.V.などの拠点で、エバール樹脂の生産を担う。欧州でも増産投資中。
  • 中国: 上海を中心に、管理・販売拠点を設置。
  • その他: タイ、インド、ブラジル、韓国、オーストラリア、チェコなど、世界各地に拠点を展開。

まとめ

クラレは、ビニロンや人工皮革などの歴史ある製品を持つ一方で、経営の実態は「稼ぎ頭のEVOH樹脂・ポバール樹脂に資源を集中し、それ以外は容赦なく整理する」というシビアな選択と集中です。西条事業所のポリエステル撤退はその象徴例であり、今後も非中核事業の整理は続く見通しです。転職を検討する際は、志望する部門がコア事業への投資対象なのか整理対象なのかを見極めることが、長期的なキャリア形成において重要になります。

参考:クラレ「ポリエステル関連製品の生産終了について」(公式)M&Aニュース「クラレ、子会社のクラレクラフレックスを吸収合併へ」クラレ「シンガポールでEVOH樹脂〈エバール®〉生産プラントの起工式を開催」クラレ「ネルンボ社買収について」日本経済新聞「クラレの24年1〜6月期、純利益39.4%増」OpenWork クラレ 社員クチコミクラレ 連結財務ハイライト(公式IR)