JSR株式会社は、もともと合成ゴムメーカーとして1957年に設立されましたが、現在ではフォトレジストやCMPスラリーなど半導体材料で世界トップクラスのシェアを持つ素材メーカーへと進化しています。そして2023〜24年、JSRの歴史においてもう一つの大転換が起きました。政府系ファンドである産業革新投資機構(JIC)によるTOB(株式公開買い付け)を受け入れ、東証プライム市場を退場し非上場企業になったのです。本記事では、非上場化から2年が経過した今の実態と、転職希望者が押さえておくべきポイントを解説します。


企業概要

  • 会社名:JSR株式会社(JSR Corporation)
  • 設立:1957年(日本合成ゴム株式会社として設立)
  • 本社所在地:東京都港区
  • 従業員数:連結7,645人(うち海外3,974人、2025年3月31日時点)
  • 売上収益:4,050億円(2025年3月期)
  • 平均年収:約829万円(平均年齢40.2歳、平均勤続年数13.7年)
  • 上場区分:非上場(2024年4月に東証プライム市場を上場廃止)
  • 海外拠点:米国、ベルギー、ドイツ、中国、台湾、韓国など

【最重要】非上場化の経緯と、転職希望者にとっての意味

何が起きたのか

2023年6月26日、JSRは官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)による買収提案を取締役会で受け入れると発表しました。JIC傘下の受け皿会社が総額9,000億円規模(1株4,350円)のTOBを実施してJSRを完全子会社化する計画で、中国の競争法当局の審査による遅延を経て、2024年3月19日から実施されたTOBが同年4月16日に成立。同年4月23日付でJICが議決権の50%超を取得し、JSRは実質的にJICの傘下に入りました。同年12月1日には、JIC傘下の受け皿会社(JICC-02株式会社)とJSR株式会社が合併し、JICC-02がJSR株式会社に商号変更する形で完全子会社化と組織再編が完了しています(同時にファインケミカル関連事業は「株式会社JSRエフテック」として分社化)。

なぜ非上場化したのか

JIC側の狙いは、四半期ごとの業績・株価変動に縛られず、中長期の視点で大胆な事業ポートフォリオの入れ替えを機動的に進められる体制を作ることにあったと報じられています。実際、非上場化後のJSRは非中核事業と位置付けたライフサイエンス事業の再編を急速に進めており、体外診断用医薬品事業をトクヤマへ820億円で譲渡(2025年10月完了)、バイオ医薬品材料事業は独メルク社へ、CRO(医薬品開発受託)事業は中国企業へそれぞれ売却する手続きを進めています。上場企業であれば時間をかけて調整したであろう抜本再編を、非上場化によって加速させた形です。

転職希望者が確認しておきたいこと

  • 事業ポートフォリオの流動性が高い:ライフサイエンス事業は継続的に売却・縮小の対象となっており、配属予定の事業が今後も自社に残るかどうかは面接で確認しておく価値がある
  • 財務負担:買収に伴う有利子負債は一時1兆円規模に達したとされ、2026年3月期末時点でも純有利子負債343億円を抱える(前期末比122.8億円圧縮)。デレバレッジ(負債圧縮)が経営の優先課題として続いている
  • 株式報酬制度への影響:一般に上場廃止に伴い、譲渡制限付株式(RSU)など市場性のある株式を用いた報酬制度は見直しを迫られることが多い。JSRが従業員向け株式報酬制度をどう変更したかについては公式な詳細情報が確認できなかったため、対象となる可能性がある方は選考・面接の場で人事に直接確認することをおすすめする
  • 将来の再上場方針:JIC側は買収発表時に「5〜7年後の再上場を目指す」との方針を示したと報じられている。非上場期間中の株式報酬や成長機会がどう設計されるかは、今後の焦点になりうる

業績のいま:半導体材料は絶好調、ライフサイエンスは再建中

非上場化後の業績は事業ごとに明暗が分かれています。主力のデジタルソリューション事業(半導体材料)は、先端半導体の回路形成に使うフォトレジスト需要の拡大を背景に大きく伸長。一方、長年苦戦していたライフサイエンス事業は、前述の事業売却と米国CDMO(医薬品受託製造)拠点の収益改善が進んだ結果、黒字転換に寄与しました。事業売却益も加わり、2026年3月期は売上収益4,407億円(前期比13%増)、純利益607億円(過去最高)という決算になっています。ただし経営陣も「一時的な事業売却益の押し上げ効果が大きい」とコメントしており、本業の実力値としては慎重に見る必要があります。


主な事業分野と製品

1. デジタルソリューション事業(半導体材料)

  • フォトレジスト(ArF、EUV対応)
  • CMPスラリー
  • 多層材料、ハードマスク材料

2. ディスプレイソリューション事業

  • 液晶ディスプレイ(LCD)材料
  • 有機EL(OLED)材料
  • カラーフィルター関連材料

3. ライフサイエンス事業(再編中)

  • バイオ医薬品開発・製造支援(CDMO)
  • 体外診断用医薬品事業は2025年10月にトクヤマへ譲渡済み
  • バイオプロセス材料、CRO事業は売却手続きが進行中

4. エラストマー事業(縮小方向)

  • 合成ゴム(SBR、BR)、タイヤ用材料

働きやすさに関するデータ

  • 有給休暇取得率:84.1%
  • 平均残業時間:月13.2時間(化学業界平均18.4時間を下回る水準)
  • 平均勤続年数:13.7年

OpenWorkの口コミでは「有給休暇が取りやすく、ワークライフバランスは良好」との声がある一方、「新卒重視の文化が根強く、中途入社者が馴染むまで時間がかかる」「部署によって忙しさの差が大きい」といった指摘も見られます。非上場化・事業再編が進むタイミングだけに、配属予定の事業部門が今後どう位置付けられるかを面接で確認しておくと安心です。


JSRの強み

  1. 半導体材料で世界トップシェア:EUVフォトレジストなど高度な微細化対応技術
  2. 非上場化による機動的な事業再編力:不採算事業の整理を迅速に断行できる体制
  3. グローバル展開:海外売上比率約70%、各国に研究開発拠点
  4. 研究開発力:売上収益の約8〜10%をR&Dに投資

国内の主要拠点

  • 本社(東京):東京都港区東新橋1-9-2
  • 鹿島工場(茨城県):合成樹脂、機能性材料などを製造する主力工場(茨城県神栖市東和田22)
  • 千葉工場(千葉県):合成樹脂や合成ゴムの生産拠点(千葉県市原市五井南海岸5)
  • 四日市工場(三重県):JSR創業の地。合成ゴム、合成ラテックス、機能性材料などを製造(三重県四日市市川尻町100)
  • 筑波研究所(茨城県):デジタルソリューションやライフサイエンスの研究開発拠点(茨城県つくば市和台42番地)
  • 平塚研究所(神奈川県):高機能材料や光学材料の研究開発(神奈川県平塚市四之宮2-2-1)

海外の主要拠点

  • 米国:JSR Micro, Inc.(シリコンバレー拠点、半導体材料事業の中心)
  • ベルギー:JSR Micro NV(ルーヴェン拠点、欧州向け半導体材料)
  • 中国:JSR(上海)有限公司
  • 韓国:JSR Micro Korea Co., Ltd.

転職希望者が押さえるべきポイント

求められる人材像

  • 化学、材料、バイオ、機械、電気分野の知識
  • 半導体材料関連の開発・製造経験(特に需要が旺盛)
  • 高い英語力(海外拠点や顧客とのコミュニケーション)

採用職種例

  • 半導体材料(フォトレジスト等)の研究開発
  • 生産技術・品質保証
  • 海外営業・マーケティング
  • 事業再編・M&Aに関わるコーポレート部門

面接で確認したい質問例

  • 非上場化以降、意思決定のスピードはどう変わったか
  • 応募職種が属する事業は、今後も自社に残る見込みか
  • 株式報酬・インセンティブ制度は非上場化でどう変わったか

まとめ

JSRは、半導体材料という成長エンジンを持ちながら、2023〜24年の非上場化・JIC傘下入りという大きな転機を経た企業です。非上場化によって事業再編のスピードは増し、ライフサイエンス事業の売却などドラスティックな変化が進行中です。半導体材料事業は世界的な需要拡大の恩恵を受けており魅力的ですが、転職を検討する際は、事業ポートフォリオの流動性、財務状況、株式報酬制度への影響といった非上場企業特有の論点を面接でしっかり確認することをおすすめします。


参考:日本M&Aセンター「産業革新投資機構、JSRを買収及び株式非公開化へ」日本M&Aセンター「JSR、TOBが成立し上場廃止へ」日本経済新聞「官民ファンドのJICが買収 JSRが非上場化で背負う重荷」日本経済新聞「JSRの純利益607億円で過去最高 26年3月期、事業売却が寄与」日本経済新聞「JSRのライフサイエンスなお赤字、4〜9月期 負債圧縮へ順次事業売却」JSR株式会社「早わかりJSR」OpenWork JSR社員クチコミ