化学業界の会社分析

クラレのEVOH樹脂(エバール®) 〜世界トップシェアを誇る高バリア性樹脂〜

1. 概要と歴史

EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂)は、プラスチックの中でも特にガスバリア性に優れた素材です。
クラレは1972年に世界で初めてEVOH樹脂の工業化に成功し、**「エバール®」**というブランド名で販売を開始しました。
現在も世界シェアの大半を占め、包装分野や自動車分野など多岐にわたる用途で使用されています。


2. EVOH樹脂の構造と特徴

2.1 化学構造

  • EVOHは、**エチレン(疎水性)ビニルアルコール(親水性)**が交互に並んだ共重合体

  • ビニルアルコール部分が酸素や香気成分の透過を防ぐバリア層として機能

2.2 特徴

  1. 極めて高い酸素バリア性

    • ナイロンやポリエチレンの数十〜数百倍のバリア性

  2. 透明性・光沢性

    • 包装材として外観品質を高める

  3. 加工適性

    • 多層共押出、ラミネート、ブロー成形が可能

  4. 耐油・耐有機溶剤性

    • 食品の油分や香気成分を逃さない

  5. 耐薬品性

    • 多くの化学薬品に対して安定


3. 主な用途

3.1 食品包装

  • レトルト食品パウチ

  • ペットフード包装

  • 調味料ボトル(ケチャップ、マヨネーズなど)

  • 缶詰代替パウチ(軽量化・省資源化)

EVOH層をポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)で挟む多層構造にすることで、強度と密封性を両立。

3.2 自動車燃料タンク

  • ガソリンの透過を防止し、揮発性有機化合物(VOC)の排出を削減

  • 米国や欧州の排ガス規制(EPA・CARB)対応に必須

3.3 医療・工業用途

  • 医薬品包装(酸素による成分劣化防止)

  • 農薬や化学薬品容器

  • 電子部品の防湿包装


4. 市場ポジション

  • **世界シェアトップ(約70%以上)**をクラレが保有

  • 主要生産拠点:日本(岡山)、米国(ケンタッキー)、欧州(ベルギー)、アジア(シンガポール)

  • 供給のグローバル体制により、食品・自動車産業の世界需要に対応


5. 環境対応・持続可能性

  1. 薄肉化による樹脂使用量削減

    • 多層化技術で必要最小限のEVOH層を使用

  2. 食品ロス削減

    • 酸素劣化を防ぐことで賞味期限延長

  3. リサイクル適性向上

    • モノマテリアル化やリサイクル技術との両立研究

  4. CO₂排出削減

    • 軽量包装による輸送エネルギー削減


6. 今後の展望

  • 環境規制対応:自動車分野ではEV化と並行し、燃料タンクのバリア材需要は新興国で継続

  • バイオマスEVOHの開発:再生可能資源由来の原料を用いた環境配慮型製品

  • フードロス削減需要の増加:食品保存性向上素材として需要拡大

  • 電子部品分野の開拓:5G・半導体分野の高バリア防湿用途


まとめ

クラレのEVOH樹脂「エバール®」は、世界トップシェアを誇る高バリア性プラスチックであり、
食品の鮮度保持から自動車の排ガス規制対応まで、幅広い分野で社会的役割を果たしています。

  • 高バリア性 × 加工適性 × 環境対応

  • グローバル生産・供給体制

  • 食品ロス削減・CO₂削減への貢献

これらの強みから、今後も持続可能な社会に向けたキーマテリアルとしての地位を維持・拡大していくと考えられます。