化学業界の歴史

高効率ガス化複合発電(IGCC)とは 〜石炭火力発電を進化させた次世代技術〜

1. 概要

IGCC(Integrated Gasification Combined Cycle)は、石炭や石油コークスなどの固形燃料をガス化し、そのガスを使ってガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて発電する高効率な火力発電方式です。
従来の石炭火力よりも発電効率が高く、環境負荷も低減できるため、次世代の石炭利用技術として注目されています。


2. 発電原理

2.1 基本の流れ

  1. ガス化炉で石炭を高温高圧下で部分酸化し、**石炭ガス(合成ガス)**を生成。
    主成分は一酸化炭素(CO)と水素(H₂)。

  2. ガス精製設備で硫黄化合物や塵などの不純物を除去。

  3. 精製ガスをガスタービンで燃焼させ発電。

  4. ガスタービンの排熱で蒸気をつくり、蒸気タービンで再び発電(コンバインドサイクル)。


3. IGCCの構造とプロセス

3.1 プロセス図(イメージ)

石炭
↓(粉砕)
ガス化炉 → 合成ガス
↓(精製)
ガスタービン → 排熱 → 蒸気タービン
↓ ↑
発電 発電

3.2 主要設備

  • ガス化炉:流動床式・噴流床式が主流

  • ガス精製装置:脱硫塔、集塵装置、脱塩素装置

  • ガスタービン・蒸気タービン:高効率の複合サイクルを構成


4. 従来型石炭火力との違い

項目 従来型(汽力発電) IGCC
燃料 石炭(直接燃焼) 石炭(ガス化後燃焼)
発電方式 蒸気タービン単独 ガスタービン+蒸気タービン
発電効率 約38〜40% 約46〜50%(将来55%超の可能性)
排出物処理 燃焼後処理 燃焼前処理(ガス精製段階)
CO₂削減効果 中〜大

5. IGCCの利点

  1. 高効率
    複合サイクルにより、石炭火力として世界最高クラスの効率を実現。

  2. 環境負荷低減

    • 硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、ばいじんの排出を大幅に低減。

    • 燃焼前にガス精製するため処理効率が高い。

  3. 多様な燃料対応
    石炭だけでなく石油コークス、バイオマス混焼も可能。

  4. CO₂回収の容易さ
    合成ガス段階でCO₂分離・回収(CCS/CCUS)を導入しやすい。


6. 課題

  1. 建設コストが高い
    ガス化炉・精製設備・複合タービンなど大型で複雑。

  2. 運転・保守の難しさ
    高温・高圧設備が多く、運用ノウハウが必要。

  3. 石炭依存からの脱却問題
    CO₂排出は従来型より減るが、再エネ・原子力と比べるとゼロではない。


7. 日本におけるIGCCの導入事例

  • 福島県いわき市 勿来IGCC発電所(2021年商業運転開始)
    出力:54.3万kW、発電効率:約48%
    東日本大震災の復興事業の一環として整備。

  • 福島県広野町 広野IGCC発電所(2021年商業運転開始)
    出力:54.3万kW
    国内最大級の石炭ガス化複合発電プラント。

日本はIGCCの商業化において世界トップクラスの技術力を持ち、今後はアジア新興国への輸出も視野に入れています。


8. 世界での動向

  • 米国:ケンプ発電所(ミシシッピ州)でCO₂回収型IGCC(後に石炭利用を停止)

  • 中国:大型IGCCを複数建設し、石炭化学との統合も進行

  • 欧州:環境規制強化により石炭利用は縮小傾向だが、CCS併用型の実証は継続


9. 将来展望

9.1 脱炭素社会への適合

  • IGCC+CCUSでCO₂排出大幅削減

  • グリーン水素との混焼によりゼロエミッション化の可能性

9.2 高効率化の進展

  • 次世代ガスタービンの採用により発電効率55%超を目指す

9.3 国際展開

  • 石炭資源を持つ新興国向けに、環境負荷の少ない発電技術として輸出可能


10. まとめ

高効率ガス化複合発電(IGCC)は、石炭火力の弱点だった低効率と高排出を大幅に改善する技術です。
発電効率の高さ、不純物除去の容易さ、CCUSとの親和性から、石炭利用の最終形態ともいえます。
ただし、建設費や運用コスト、CO₂排出ゼロ化の課題も残されており、再エネや水素との組み合わせが将来の鍵となります。