化学業界の歴史

エラストマー(Elastomer) 〜ゴムのように伸びて戻る高分子材料〜

1. エラストマーとは

エラストマーとは、常温でゴムのような弾性を示す高分子材料の総称です。
「弾性(Elasticity)」と「ポリマー(Polymer)」を組み合わせた造語で、伸ばしてもすぐに元の形に戻る性質を持ちます。

1.1 ゴムとの違い

  • 天然ゴム(NR)や合成ゴム(SBR, NBRなど)も広義ではエラストマーに含まれる

  • しかし狭義では、**熱可塑性エラストマー(TPE)**を指すことが多い

    • TPEはゴムの弾性とプラスチックの加工性を併せ持つ素材


2. エラストマーの分類

2.1 加工性による分類

  1. 熱可塑性エラストマー(TPE)

    • 加熱で溶融し、冷却で固化

    • 射出成形・押出成形が可能

    • リサイクル性が高い

  2. 熱硬化性エラストマー(ゴム)

    • 加硫や架橋反応により三次元網目構造を形成

    • 加工後は再溶融できない

    • 高耐熱・高弾性


2.2 化学構造による分類(TPEの代表例)

種類 特徴 主な用途
スチレン系TPE(TPS, SBS, SEBS) 柔軟性・透明性・低温特性に優れる グリップ、家電部品、包装材
オレフィン系TPE(TPO, TPV) 耐候性・耐熱性、軽量 自動車バンパー、内装材
ポリエステル系TPE(TPEE) 高強度・耐油・耐摩耗 ベルト、ホース、ギア
ポリアミド系TPE(TPA) 耐熱・耐薬品性 燃料チューブ、機械部品
ウレタン系TPE(TPU) 高耐摩耗性・耐油・耐寒性 靴底、スポーツ用品、ケーブル被覆

3. エラストマーの特性

  1. 弾性回復性

    • 伸び率は数百%に達することも

  2. 柔軟性

    • 低温でも硬化しにくい

  3. 軽量性

    • 比重が低く、輸送・加工コストを抑制

  4. 耐候性・耐薬品性

    • 種類によっては紫外線やオゾンに強い

  5. 加工性

    • 熱可塑性タイプはプラスチック加工機械で成形可能


4. 主な用途

4.1 自動車分野

  • バンパー、ダッシュボード、ウェザーストリップ

  • 燃料系部品(耐油・耐薬品性)

  • 防振部品(エンジンマウント)

4.2 家電・日用品

  • 電動工具や家電のグリップ

  • ケーブル被覆、コネクタ部品

  • スマホケース

4.3 医療分野

  • 医療用チューブ、シリンジ部品

  • 滅菌可能な医療器具(TPUやTPEE)

4.4 スポーツ・アパレル

  • 靴底(TPU)

  • ゴーグルバンド

  • ウェアの伸縮部材


5. 市場動向

  • 需要拡大の背景

    1. 金属や硬質プラスチックの軽量化代替

    2. 環境規制によるリサイクル性向上ニーズ

    3. 医療・衛生分野での安全性需要

  • 世界市場

    • TPE市場は年平均成長率(CAGR)約5〜7%で拡大

    • 最大用途は自動車産業、次いで建築、家電、医療


6. 環境対応

  • 熱可塑性エラストマーはリサイクル可能

  • ハロゲンフリー素材の開発

  • バイオマス由来TPEの研究(植物油や乳酸誘導体を原料とするTPUなど)


7. まとめ

エラストマーは、ゴムの柔軟性とプラスチックの加工性を兼ね備えた高分子材料であり、
軽量化・デザイン自由度・リサイクル性といった現代の製品設計要求に合致する次世代素材です。

  • TPEは循環型社会に適合

  • 用途は自動車・家電・医療・スポーツまで拡大

  • 機能性改良による高付加価値化が進行中