化学業界の歴史

CTO(Coal to Olefin)・CTM(Coal to Methanol)とは〜石炭から化学品を生み出す最新プロセス〜

1. はじめに

石炭は従来、燃料や製鉄用コークスの原料として利用されてきましたが、近年では化学原料として再び注目されています。その中でも、**CTO(Coal to Olefin)CTM(Coal to Methanol)**は、石炭を出発原料としてオレフィン(エチレン・プロピレンなど)やメタノールを製造する技術です。
特に中国では、豊富な石炭資源と原油輸入依存の低減を目的として、この技術の商業化が急速に進んでいます。


2. CTO・CTMの定義

  • CTM(Coal to Methanol)
    石炭をガス化して合成ガス(CO + H₂)に変換し、触媒反応によってメタノール(CH₃OH)を製造するプロセス。

  • CTO(Coal to Olefin)
    上記CTMで得られたメタノールをさらにMTO(Methanol to Olefin)プロセスにかけ、エチレン・プロピレンなどのオレフィンに転換するプロセス。
    → CTO = Coal → Synthesis Gas → Methanol → Olefin


3. プロセスの流れ

3.1 石炭からオレフィンまでの一般的フロー

石炭
↓(ガス化)
合成ガス(CO + H₂)
↓(メタノール合成)
メタノール
↓(MTO反応)
オレフィン(エチレン、プロピレン)

3.2 各工程の概要

(1) ガス化工程

  • 高温高圧下で酸素や水蒸気を供給し、石炭をCOとH₂の混合ガスに変換。

  • 不純物(硫黄、窒素化合物、粉塵)を除去。

(2) メタノール合成工程(CTM)

  • 触媒(Cu-ZnO-Al₂O₃系)を用い、合成ガスをメタノールに転化。

  • 反応式:CO + 2H₂ → CH₃OH

(3) MTO工程(CTO)

  • ゼオライト触媒(SAPO-34など)でメタノールを脱水・分解し、エチレンやプロピレンを生成。

  • 副生成物としてC₄以上の炭化水素も得られる。


4. 技術的背景と発展の理由

4.1 資源事情

  • 中国やインドなどは石炭資源が豊富で、石油・天然ガスの輸入依存が高い。

  • CTO・CTMは、国内資源活用型の化学品生産を可能にする。

4.2 石油化学との比較

  • 石油化学ではナフサ分解でオレフィンを得るが、原油価格変動の影響が大きい。

  • CTOは石炭価格に依存するため、原油高の時期に競争力を持つ。


5. 利点

  1. 資源自立性
    石油輸入依存を低減できる。

  2. 大量生産性
    大規模プラント化が可能。

  3. 原料価格の安定
    石炭価格は比較的変動が小さい。

  4. 副産物利用
    硫黄化合物やCO₂の回収利用が可能。


6. 課題

  1. CO₂排出量の多さ
    石炭ガス化は化石燃料の中でも温室効果ガス排出量が多い。

  2. 初期投資の大きさ
    ガス化設備、触媒、精製工程が複雑で設備コストが高い。

  3. 環境規制
    大気汚染物質(SO₂、NOx、粉塵)の処理が必要。

  4. 水資源の大量消費
    冷却・洗浄工程で多くの水を必要とするため、水資源の乏しい地域では課題。


7. 中国での事例

  • 神華集団(Shenhua Group)
    世界最大規模のCTOプラントを内モンゴルに建設。年間数百万トン規模のオレフィンを生産。

  • 寧夏煤業集団
    CTMを経由したポリプロピレン製造で商業化に成功。

  • 中国では環境規制が強化されつつも、依然として石炭化学の中心技術として位置づけられている。


8. 将来展望

8.1 環境対応型CTO/CTM

  • CCUS技術(Carbon Capture, Utilization and Storage)との組み合わせによるCO₂削減。

  • 再生可能エネルギー由来のH₂を合成ガス製造に利用し、炭素効率を向上。

8.2 国際的な動向

  • 欧米では環境負荷の高さから大型CTO/CTMは少ない。

  • アジア・中東・アフリカの石炭資源国での採用可能性が高い。


9. まとめ

  • CTMは「石炭 → メタノール」、CTOは「石炭 → メタノール → オレフィン」の流れ。

  • 石油化学依存からの脱却を狙う資源国にとって戦略的技術。

  • 一方で、CO₂排出量の多さと環境規制対応が最大の課題。

  • 将来的にはCCUSやグリーン水素と組み合わせることで、持続可能な化学原料製造プロセスへ進化する可能性がある。