化学プラントの現場は、常に安定稼働が求められます。しかし、どんなに経験豊富なエンジニアでも、思わぬトラブルは避けられません。
重要なのは「失敗を防ぐこと」だけでなく、「失敗から学び、再発防止の仕組みを作ること」です。ここでは、現場でよくあるトラブル事例と、その解決法・再発防止策を紹介します。
1. 配管腐食による漏洩事故
事例
硫酸系の化学品を扱う配管で、腐食が進行していたにも関わらず定期点検で見落としが発生。稼働中に小規模な漏洩が発生し、緊急停止に追い込まれた。
原因
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点検時のチェックリスト不足
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非破壊検査の頻度・方法が不十分
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腐食環境への認識不足
解決法
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配管材質・使用環境に応じた点検周期の見直し
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超音波・渦電流など非破壊検査の導入
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腐食マップの作成と定期的な更新
2. 制御系トラブルによるプロセス異常
事例
DCS(分散制御システム)のセンサーが故障し、温度制御が正常に働かず反応が暴走しかけた。幸いバックアップシステムが作動し、大事故は回避。
原因
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センサー劣化に対する事前予測が不十分
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異常値検知の設定が甘い
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メンテナンス計画の更新遅れ
解決法
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IoTを活用したセンサー稼働データのモニタリング
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設定値逸脱時の多段階アラーム設計
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年次メンテナンス時に予防交換を実施
3. 原材料切れによる生産ライン停止
事例
原料の入荷遅れにより、予定外のライン停止が発生。契約納期に間に合わず、顧客クレームに発展。
原因
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サプライチェーンのリスク管理不足
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代替原料の事前確保ができていない
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在庫管理システムの精度不足
解決法
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主要原料は複数サプライヤーから調達
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代替原料の適合試験を事前に完了
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需要予測と在庫のリアルタイム連動
4. 高圧設備の安全弁作動不良
事例
反応槽の安全弁が作動せず、圧力が急上昇。緊急停止で回避したが、重大事故につながる可能性があった。
原因
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安全弁の点検周期延長による劣化見落とし
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設備更新の投資優先度が低かった
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作動試験の記録不備
解決法
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安全弁の定期点検・作動試験の厳守
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使用年数と交換サイクルを明文化
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設備投資計画に安全装置更新を組み込む
5. 人的ミスによる薬品混合エラー
事例
オペレーターが作業手順を誤り、異なる原料を混合してしまい製品が全ロット廃棄に。
原因
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作業手順書の不備
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教育不足
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現場の人員不足による過労・注意力低下
解決法
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作業指示をデジタル化し、バーコードやRFIDで原料確認
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定期的な技能・安全教育
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シフト管理による作業負荷の平準化
まとめ:トラブルを防ぐ最大の武器は「仕組み化」
化学プラントでは、一度のミスが生産停止や安全事故に直結します。個人の注意だけでなく、仕組みでミスを防ぐ文化が不可欠です。
また、近年はDX化やIoT導入で予知保全が可能になっており、転職市場でも安全管理+デジタルスキルを持つエンジニアの評価は高まっています。