化学業界の歴史

不織布(医療・衛生材分野) 〜繊維を織らずに作る高機能素材〜

1. 概要

不織布(ふしょくふ)とは、繊維を織ったり編んだりせず、繊維同士を機械的・化学的・熱的に結合させたシート状の素材です。
医療・衛生分野では、滅菌性・透過性・フィルター性・使い捨て性を活かして幅広く活用されています。

  • 英語表記:Nonwoven Fabric

  • 特徴:軽量・通気性・吸収性・加工性に優れる

  • 用途:マスク、ガウン、ドレープ、滅菌包装、紙おむつ、生理用品など


2. 医療・衛生材分野での重要性

医療・衛生用途では以下の理由で不織布が重要視されています。

  • 感染症対策:病原体や体液の飛沫防止

  • 使い捨て:交差感染リスクを低減

  • 軽量・柔軟:長時間使用でも快適

  • コスト効率:大量生産が可能で低価格化しやすい


3. 製造方法

不織布の製造法は複数ありますが、医療・衛生材に多いのは以下の方式です。

3.1 スパンボンド法(Spunbond)

  • 熱可塑性樹脂(ポリプロピレンPPなど)を溶融紡糸 → 冷却 → 直接ウェブ化 → 熱圧着

  • 特徴:強度が高く、通気性良好

  • 用途:医療用ガウン、マスク外層

3.2 メルトブロー法(Meltblown)

  • 細い繊維を高温高速エアで吹き飛ばし、極細繊維のシートを形成

  • 特徴:微粒子捕集性能が高い(PM2.5・ウイルス等)

  • 用途:マスクフィルター層、医療用防護服の中間層

3.3 スパンレース法(Spunlace / Hydroentangled)

  • 高圧水流で繊維を絡ませて結合

  • 特徴:柔らかく肌触りが良い

  • 用途:ウェットティッシュ、医療用ワイパー


4. 原材料

医療・衛生用途では以下の素材が多用されます。

  • ポリプロピレン(PP):軽量・耐薬品性・低コスト

  • ポリエステル(PET):強度・耐熱性

  • レーヨン:吸水性・肌触り

  • 複合素材:PP+PEフィルムなどによる防水機能付与


5. 特徴

5.1 長所

  • 滅菌可能(EOG滅菌、γ線滅菌、高圧蒸気滅菌に対応するグレードあり)

  • フィルター性能の調整が容易

  • 使い捨てに適し、感染症リスクを低減

  • 加工しやすく形状の自由度が高い

5.2 短所

  • 繰り返し使用には向かない(強度・耐久性の制約)

  • 高温での滅菌に対応できない素材もある

  • 廃棄物増加(ただしリサイクル対応素材も開発中)


6. 主な用途

6.1 医療分野

  • サージカルマスク(外層:スパンボンド、中間層:メルトブロー、内層:スパンボンド)

  • サージカルガウン・アイソレーションガウン

  • 手術用ドレープ(患者や器具の覆い)

  • 滅菌包装材(医療器具用)

6.2 衛生分野

  • 紙おむつ(トップシート・バックシート)

  • 生理用ナプキン

  • ウェットティッシュ

  • 介護用パッド


7. 感染症と不織布需要

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行により、不織布マスクや防護服の需要が急増。
特にメルトブロー法による微細繊維フィルターは一時的に世界的供給不足となり、生産体制の強化や国産化が進みました。


8. 環境対応

医療・衛生用途では使い捨てが多く、廃棄物問題が課題。
近年は以下の環境対応型不織布が開発されています。

  • バイオマス由来PP(サトウキビ、トウモロコシなど)

  • 生分解性ポリマー(PLA:ポリ乳酸)

  • リサイクル可能なモノマテリアル不織布


9. 市場動向

  • 世界の医療・衛生用不織布市場は年5〜7%成長予測

  • アジア(特に中国・インド)は生産・消費ともに拡大中

  • 高機能化(耐水・耐血液透過・抗菌)による付加価値製品の需要増


10. まとめ

医療・衛生材向け不織布は、感染予防・衛生管理・快適性を同時に満たす重要な素材です。
スパンボンドやメルトブローなど製法や素材を組み合わせることで、用途ごとに最適な性能が得られます。
今後は、高機能化と環境対応が市場成長の鍵となるでしょう。