1. 鉛が使われる理由
ペロブスカイト太陽電池では、光吸収層の「Bサイト」金属として鉛(Pb²⁺)が多く使われています。
理由は以下の通りです。
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高効率:鉛系ペロブスカイトは結晶性が良く、電子・ホールの移動度が高い
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安定性:同じ2価金属のスズ(Sn)より酸化されにくく、長期安定性が高い
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製造容易性:溶液プロセスで均一に成膜しやすい
しかし、鉛は重金属であり、環境汚染や人体影響の懸念があります。
2. 鉛の環境負荷
鉛は有害性が高く、生物濃縮や慢性毒性を引き起こします。
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水質汚染:鉛イオンが水中に溶出すると、魚類や水生生物の神経系に障害を与える
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土壌汚染:長期間にわたり土壌中に残留し、植物の成長を阻害
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食物連鎖:生態系を通じて人体に蓄積するリスク(特に子どもへの影響が大きい)
3. 廃棄時のリスク
ペロブスカイト太陽電池は軽量で薄い構造のため、廃棄や破損時に鉛が外部に漏れ出す可能性があります。
想定されるシナリオ
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破損・粉砕
→ ペロブスカイト層が露出し、鉛化合物が微粒子や粉塵として拡散 -
雨水浸透
→ 鉛イオンが水に溶け出し、排水経路や地下水へ流入 -
焼却処理
→ 高温で揮発し、大気中に鉛蒸気や酸化鉛粒子として拡散
これらは、廃棄物処理法や有害物質規制に抵触する可能性があります。
4. 規制動向
鉛使用に関しては、各国で規制が強化されています。
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EU RoHS指令:電子電気製品の鉛含有量を0.1wt%以下に制限(太陽電池は一部除外対象だが将来撤廃の可能性)
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廃棄物処理法(日本):鉛含有廃棄物は特別管理産業廃棄物として扱う必要あり
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国際条約(バーゼル条約):有害廃棄物の国際移動を制限
ペロブスカイト太陽電池が普及すると、鉛含有廃棄物の大量発生が社会問題化する懸念があります。
5. 対策技術
研究開発では、以下のアプローチが進んでいます。
5.1 封じ込め技術
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多層封止:高分子フィルムやガラスで多重にカプセル化
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自己修復コーティング:ひび割れ時に自己修復して鉛漏出を防ぐ材料
5.2 回収・リサイクル
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湿式化学処理で鉛を溶出・回収
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溶融再生プロセスで鉛化合物を再利用
5.3 鉛フリー化
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Sn系ペロブスカイト:無鉛だが酸化による性能劣化が早い
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Bi系・Sb系ペロブスカイト:安定性は高いが変換効率が低い
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混合金属系:鉛使用量を減らしつつ性能維持を狙う
6. 商業化に向けた課題
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鉛封止技術の長期信頼性評価(20年以上)
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大量廃棄時の回収スキーム構築
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鉛フリー化と高効率化の両立
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規制強化への先回り対応
7. まとめ
ペロブスカイト太陽電池は高効率・低コスト化の切り札ですが、鉛(Pb)の環境負荷と廃棄リスクは無視できません。
商業化の鍵は、以下の3点に集約されます。
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漏出防止の封止技術
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廃棄時の安全な回収・リサイクル体制
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鉛フリー代替材料の実用化
これらを同時に進めることで、持続可能かつ社会的に受け入れられる次世代太陽電池としての道が開けます。