化学業界の会社分析

ペロブスカイト太陽電池の原材料 〜光吸収から封止までを支える素材の全体像〜

1. ペロブスカイト太陽電池の構造と原材料の位置づけ

ペロブスカイト太陽電池は、大きく以下の層構造で構成され、それぞれに異なる原材料が使われます。

[透明電極層] → [電子輸送層(ETL)] → [ペロブスカイト光吸収層] → [ホール輸送層(HTL)] → [背面電極] → [封止材]

この層ごとに、光透過性・電子輸送性・耐候性・コストなどの要求性能を満たす材料が選定されます。


2. ペロブスカイト光吸収層の原材料

光吸収層はペロブスカイト太陽電池の心臓部であり、以下の化学式で表される結晶構造を持ちます。

一般式:ABX₃

  • Aサイト:有機カチオン(メチルアンモニウム(MA⁺)、ホルムアミジニウム(FA⁺))または無機カチオン(Cs⁺)

  • Bサイト:金属カチオン(Pb²⁺が主流、Sn²⁺も研究中)

  • Xサイト:ハロゲン陰イオン(I⁻, Br⁻, Cl⁻)

代表的組成例

  • MAPbI₃(メチルアンモニウム鉛ヨウ化物)

    • 初期研究で多用、作りやすく高効率

    • 湿気・熱に弱い課題あり

  • FAPbI₃(ホルムアミジニウム鉛ヨウ化物)

    • 長波長光吸収に有利、変換効率向上

  • CsPbI₃(セシウム鉛ヨウ化物)

    • 無機系で耐熱性・耐候性が高い


3. 電子輸送層(ETL)の原材料

電子を効率的に取り出す層で、透明性・電子移動度・適切なエネルギーレベルが重要です。

主な材料

  • 酸化チタン(TiO₂)

    • 安価・安定、低温焼成型も開発中

  • 酸化スズ(SnO₂)

    • 高電子移動度、低温製造が可能

  • 酸化亜鉛(ZnO)

    • 柔軟基板向けに利用、界面修飾が必要


4. ホール輸送層(HTL)の原材料

正孔(ホール)を効率的に取り出す層で、電子ブロック性と高導電性が求められます。

主な材料

  • Spiro-OMeTAD

    • 有機分子、現在もっとも広く使われる

    • 高価・ドーピング安定性の課題

  • PEDOT:PSS

    • 高分子導電体、印刷法に適応

    • 酸性による劣化リスクあり

  • NiOx(酸化ニッケル)

    • 無機系、耐久性が高い


5. 電極材料

電子とホールを外部回路に流すための導電性材料。

  • 透明電極

    • ITO(酸化インジウムスズ)

    • FTO(フッ素ドープ酸化スズ)

  • 背面電極

    • 金(Au)…高効率だが高価

    • 銀(Ag)…比較的安価だが硫化リスク

    • 炭素電極…低コスト・印刷可能


6. 封止・保護材料

ペロブスカイトは湿気や酸素に弱いため、封止材が寿命を左右します。

  • EVA(酢酸ビニル樹脂)

    • シリコン太陽電池でも使用、低コスト

  • ポリオレフィン系封止材(POE)

    • 水蒸気バリア性が高い

  • 高機能フィルム(フッ素樹脂系など)

    • 積水化学や三井化学が開発


7. 鉛問題と代替材料

現状主流のペロブスカイトは鉛(Pb)を含むため、環境負荷や廃棄時の安全性が課題です。
代替としてスズ(Sn)系ペロブスカイトビスマス(Bi)系が研究されていますが、効率や安定性でまだ劣ります。

ペロブスカイト太陽電池と鉛(Pb)の課題 〜環境負荷・廃棄リスク・対策技術〜1. 鉛が使われる理由 ペロブスカイト太陽電池では、光吸収層の「Bサイト」金属として鉛(Pb²⁺)が多く使われています。理由は以下の通...

8. 原材料調達の課題

  • ハロゲン原料(ヨウ素、臭素)の価格変動

  • インジウム(ITO用)の資源制約

  • 鉛規制の動き(EU RoHS指令など)

  • 封止材の長期信頼性確保


9. まとめ

ペロブスカイト太陽電池の性能と寿命は、原材料選定の巧拙で大きく左右されます。
特に光吸収層の組成最適化、電子・ホール輸送層の安定性向上、封止技術の強化が、商業化のカギとなります。
今後は「高効率 × 長寿命 × 環境対応」の3条件を満たす材料開発が、業界全体の最大テーマです。